大聖院通信vol.14「美意延年」

彼岸花
彼岸花

 秋の空が青く高く澄みわたっている。あの暑さからようやく解放されて、心地よい時節になってきた。

 

さて漢字の成り立ちの話だが、“心”という部首に“秋”を組み合わせると「愁」という字になる。辞書の説明によると、秋という文字には“ちぢむ”という意味があるので、「愁」とは心が小さく縮むこと、つまり「うれえる、かなしむ」となるのだそうだ。とはいえ、ひと口に“秋”といっても、まだまだ夏の暑さが残る初秋、名月を愛でる仲秋、野山や田畑に自然の恵みがあふれる実りの秋、黄や紅に色づいた木の葉がやがて枯れ落ちて寒い冬に向っていく晩秋まで、色々な秋がある。「愁」の場合はたぶん晩秋の風情に由来するのだろう、と私は勝手に納得している。

柿

 その一方で、巷にあふれる“○○の秋”という言葉には、読書・スポーツ・芸術・食欲・・・などなど、もっと明るく活動的なイメージがあると思う。実りの秋を満喫するとか、日頃から研鑽を積んできた音楽や芸術などを発表するとか、計画していた旅行を実行するとか、はたまた何か新しいことに挑戦するとか。そんなふうにして、頭も身体も心も、そして胃袋も刺激しながら、それぞれ思い思いに楽しい時間を過ごそうという気分になるのではないだろうか。

「美意延年」(こころをたのしませれば寿命を延ばす)という言葉がある。心を楽しくさせて、つまらぬ事にクヨクヨすることなく、憂いが少なければ、おのずから長寿を保つことができる、と。

ススキ
ススキ

 秋の季節だけに限らず、何かに打ち込んで心から楽しいと感じることは、我々が生きていく上でとても大切なことなのだ。そもそも「たのしい」という言葉は、屈めた手を伸ばすことに由来する、つまり「手伸ばし→てのし→たのし」であるという。狭いところに押し込められて縮こまっているような窮屈な状態から脱出して、のびのびと手足をぐーんと伸ばして押し広げる・・・\(^o^)

このように、生きることの喜びを表現した言葉が「たのしい」なのである。

 

とはいっても、楽しみも極度に達すればかえって哀しみを生じるものである。楽しみ尽きて哀しみ来る、楽しみ極りて哀情多し、である。楽しみばかりを追求してもキリがない。楽は苦の種、苦は楽の種。楽ばかりでなく、苦も知らなければならぬ。適度な楽しみ、平静な日常の中にささやかな楽しみをもつことが丁度よいと思う。何はともあれ、この短い秋を思う存分に楽しみたいものだ。(副住職孝善)

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